地方にある古民家や空き家、土地などを活用し、人の暮らしと営みにつなげていくこと。
そこから地域の活性化や、文化・伝統・歴史の継承にもつなげたい。
この想いは私の不動産業者としての理念です。
貴重な古民家を未来に残したい、という想いは仲介という立場だけでなく、ときには自らオーナーや住まい手、直し手になることもあります。
今回は、直し手として取り組んだ、古民家の在来浴室(=昔ながらの工法で造られたお風呂)のDIYについてご紹介します。
この風景を残したい! タイルの山と湖の絵
今回手を入れたのは、築年数不明ながらもおそらく100年は経っていると思われる古民家のお風呂です。
腰壁より下は全面タイル貼りの、いわゆる在来工法で作られた浴室。
中でも目を引いたうちの一つが、壁に描かれたタイル絵でした。
山と湖、木々の風景がタイルで表現されていて、まるで銭湯の富士山のような雰囲気!
初めてこの家を見たとき思わず、この絵を見ながらお風呂に入れたら最高だなあと妄想が捗りました。
とはいえ、タイル張りの浴室は衛生管理が難しく、冬場はとにかく冷たい。
浴室全体も古く、狭く、汚れも目立っていたため、最初はすべて解体してユニットバスを入れる案も検討しました。
でも最終的には、手直ししてできる限り今のかたちを活かすことを選択しました。
小さい浴室ながらこの絵があれば、きっと広い風呂にも負けない心ほぐれる間になる、と直感的にそう感じたからです。
マイナス面も、視点を変えればプラスにできるはず。
手を加えれば、十分に再生できる。
そして今ではあまり造られない在来浴室を残すことは、この家の価値そのものにもなることでしょう。
決心した時は、完全に建物への愛着が勝った瞬間でした。
業者ではなく、自分でやるという選択
風呂の改善にはいくつかの工程が必要です。
➀天井と壁のカビ落とし+ペンキ塗装(DIYにて作業済)
➁タイル床の張替え
➂金属製の柱の錆落としと塗装
➃タイルの目地の清掃と塗装
⑤木部(窓枠など)の防カビ塗装
⑥給湯器具・水栓器具・電気器具の交換
このうち➀~⑤までは自分で、⑥だけを業者さんに依頼することにしました。
正直、プロの業者さんに頼めば早くて綺麗です。
でも、自分で手を動かすと、建物への見方が変わってきます。
こんな造り方してたんだ
昔の職人さんはすごいな!
そんな気づきの連続です。
すると、どんどん家が好きになっていきます。
それに自分で経験しているからこそ、将来売主さんや買主さんに、こういう直し方もありますよと具体的にアドバイスできる。
不動産業者としての視野も深まっていくように感じています。
今回のDIY:床と柱を手直し
上に挙げた作業のうち、今回は以下をDIYで行いました。
➁タイル床の張替え
➂金属製の柱の錆落としと塗装
◆ タイル床に「バスナリアルデザイン」を施工(②)
浴室のタイル床は冷たく、滑りやすく、掃除も大変。
貼り方は「セメント施工(接着剤を均一に塗って貼る)」と「テープ施工(専用の両面テープで貼る)」の2種類がありましたが、セメントは難しそうだし、やり直しがきかなさそう。
そこで、テープ施工を選択。結果的にこれが大正解でした!
素人でも扱いやすく、多少ズレても微調整ができるのがポイント。
とはいえ、切る作業はなかなか一筋縄ではいきません。
一見まっすぐな壁でも、古民家は微妙に歪んでいます。
きちんと測ってカットしても、壁に寄りすぎたり、逆に隙間ができたり…。
置いてみては微調整、という作業を何度も繰り返しました。
◆金属の柱のサビ落としと塗装(③)
銅もしくは真鍮と思われる柱は経年劣化でサビが出ていたので、サビを落とし、下塗りとう上塗りの2段階で塗装しました。
刷毛跡は残っていますが、そのムラこそDIYの味。
むしろ手作業ならではの風合いが、在来浴室の空気感によくなじんでいます。
サビがなくなり、くすんでいた色も少し明るくなって、見た目にも清潔感が出ました。
やってみてわかったこと
・ 業者さんの技術と手際のよさには脱帽。今後はより敬意をもって依頼できそうです。
・ 不器用でも、時間がかかっても、自分で直すと建物への愛着がぐっと深まる。
・ 古民家には一軒ごとにクセがあり、それが面白さでもある。
・ 完璧な仕上がりじゃなくても、手をかけた分だけ味のある再生ができる。
おわりに:手を動かすことが、建物を知る
私の仕事は、古民家や土地を単なる物件として扱うだけではありません。
そこにある物語や時間の積み重ねにも向き合いたい。
そんな思いを今回のDIYを通してあらためて感じました。
また、この家の魅力や価値にももう一度気づくことができました。
やっぱりこの家を後世に残したい!と思わせてくれる体験でした。
まだまだ浴室の手直しは続きます。
作業が一段落したら、また記事でご紹介しますね。
よかったら、またのぞいてみてください。